お香立てに、ちょこんと座る小さな陶器の猫がいる。
いつ、私たちの部屋にやってきたのか、正確な日付はもう思い出せない。
けれど、彼がこの家の一員になってから、部屋の空気はどこか柔らかくなった。
一生懸命にお香を支える愛らしい佇まい。私たちは親しみを込めて、彼のことを「相棒」と呼んでいる。
相棒の仕事は、丸い香立てを抱えて、一本のお香をじっと支え続けることだ。
相棒の頭上から、白い煙がゆったりと立ち上る。まっすぐに伸びたかと思えば、部屋の微かな空気の流れを捉えて、生き物のように美しく揺らめく。
白檀や沈香、時には少し甘いバニラや爽やかなシトラス。広がる香りは、目に見えない優しさとなって部屋を満たしていく。
お香が燃えている間、私たちはテレビを消し、スマートフォンの画面を伏せる。
ただ静かに、相棒と煙の行く末を眺める。相棒はいつも、どんなに煙が目に染みそうな時でも、じっと前を見つめたまま動かない。その健気で可愛い姿を見ていると、不思議とこちらの肩の力も抜けていく。
「今日も一日、お疲れ様」
相棒の小さな背中が、そう語りかけてくれているような気がするのだ。
外の世界でどれだけ忙しい時間を過ごしても、この空間に帰ってきて相棒にお香を託せば、心は自然と「おうちモード」に切り替わる。
彼は単なるお香立てではなく、私たちの暮らしのオンとオフを切り替える、大切な調律師なのだ。
やがてお香は燃え尽き、静かに灰が落ちる。部屋には心地よい残り香と、すっきりとした静寂が残る。お香がなくなって少し寂しそうな相棒の周りを掃除し、「今日もありがとう」と心の中で声をかける。
劇的な変化があるわけではない。劇的な会話があるわけでもない。けれど、日々の暮らしの中にそんな小さな「相棒」と過ごす15分があるだけで、私たちの毎日は少しだけ豊かになる。
今日も我が家の小さな相棒は、お気に入りの定位置で、静かに私たちの帰りを待っている。


